flowers 夏 感想

 

FLOWERS 四季 - Switch

FLOWERS 四季 - Switch

  • 発売日: 2019/11/28
  • メディア: Video Game
 

 4部作の2作目にあたる夏編の感想。1作目との大きな違いとして、主人公が白羽蘇芳から車椅子の少女、八重垣えりかに。また、1作目の最後に学院を去った匂坂マユリは一切登場せず、八重垣えりかが主人公ということで所謂ヒロインとして転入生の考崎千鳥が彼女の唯一のアミティエ、ルームメイトとなる。

 

・気に入った点

主人公がえりかに変わったことで当然ながら見える世界も変わってくる。蘇芳の目に映っていた世界は、繊細過ぎる彼女の人間性に大きく影響を受けており、常に悪い意味での緊張感が付き纏っていた。ところがえりかの世界にはその悪い緊張感が排除されていて、そこに広がる世界はとても過ごしやすく、読んでいるプレイヤー側からも快適なものだった。

比較的最近の、しかも邦画である「アフタースクール」の台詞を引用する場面は少し驚いた。自分も見たことのある作品で、状況との親和性も高かったことから、今までの引用ではどこか湧きづらかった関連性も、原作を知ってさえいればより良く受け取れたのだろうという想像がつく。

また、春にはあまり感じなかったが、夏は各種エンディングの良し悪し・・・というか好みがハッキリと出た。中でも「友達以上恋人未満」は自分の中でかなり理想的な結末であり、少女達の儚い一時は、確かに自分の想う理想的な百合の形だった。かといって秋に進む際の基盤となるTrueが気に入らなかったわけではなく、これもまた一つの理想、正しい形なのだろうと、十分に納得のいく内容だったと思う。

とにかく春と比較して主人公が変わったことによる受け取り方の変化が大きな点であり、えりかの視点であれば立花はとても人の良い委員長であったり、バスキア教諭も同じく良い印象を受けたりと、様々な変化が見受けられた。視点が変わったことだけが要因ではなく、シナリオの都合上悪い部分をあまり描かれていなかったというのも勿論あるが、それを踏まえても他の媒体以上に主人公に感情移入して読み進めるノベルゲームという媒体において、章毎に主人公を変えるという試みは面白いものだった。

総評として夏は春と比較して一切ストレス無く読み進めることが出来た。起承転結の承としてこれ以上の出来はなかなか無いのではないだろうか。

 

・えりか

本作の主人公である彼女は、何かと予防線を張ったり、自己防衛に近い自虐を頻繁に行ったり、相手との距離を適度に保とうとする反面、相手とより近づきたいという願望は確かに持っていたりと、かなり面倒・・・臆病なキャラクターだ。が、彼女の魅力もそれらの点に集約されている。その臆病さが行き過ぎることが無く、プレイヤーからの共感や支持を得られるとても丁度良いものだと感じた。

視点がえりかに変わり最も分かりやすく変わったのは謎解きパートだろう。蘇芳が「正解へ辿り着くこと」を目的として謎を解いていたのに対し、えりかは「自分に最も都合の良い脚本を描くこと」を目的として、人前で謎を解く際は徹底して自分に都合が良く皆を納得させる脚本を描き、同時に辿り着いた答えは当事者にだけ明かすというスタンスを取っていた。この独り善がりな優しさは、彼女の人となりを良く表しているだろう。

また、本作でのえりかが蘇芳に向けている気持ちというのはかなり曖昧なもので、それはどこか恋のようでもあり、しかしながら友情の一種でもある。彼女のこの気持ちは、現状他のキャラクターの抱いているどの感情にも置き換えられないもので、この二人の関係性は本作の主題の一つなのだと思う。

 

・千鳥

正直序盤では所謂アスペというやつだと思っていたし、まあそれはそんなに間違っていないのだろう。だがそれはどうでもいいことで、千鳥の存在は間違いなく本作で欠かせないものだったと思う。

その容姿や雰囲気、抱えている問題に起因する目つきや人の痛みが分からないという性質故に、敵を作りやすい千鳥。千鳥が他の登場人物と一線を画していたのはそれらの要素以上に「人から抱かれる感情への関心の無さ」だろう。

他の登場人物・・・つまるところ大多数の女性が「人から向けられる感情」に対して敏感且つ臆病であり、それは何も女性だけに言えることではない(女性の方がそれらに敏感であるとは思うが)

それらに無頓着、鈍感な千鳥は、本作では珍しい我の強い、軸のぶれないキャラクターであり、一見そういった印象を受けるえりかとの絡みでは二人の差が色濃く出ていたように思える。これは本作を通してこの二人で描くのが最も適切な問題であったように思うし、少女性を描いていると言っても良い本作では描かれて然るべき内容だろう。

えりかと千鳥の関係性はとても美しく、この二人の全てのエンディングで共通して抱いた感想として、今にも壊れてしまいそうな危うさ、儚さがありながらも、目を背けるようにお互いを信じる…身を預ける。そんな刹那的な印象を受けた。

 

・蘇芳

蘇芳が主人公で無くなってより強調された「作り物の美少女」(=偶像性)というポイントは、蘇芳が主人公のままでは疑念のまま消えてしまう可能性を孕んでいたが、蘇芳に近しい友人・・・書痴仲間であるえりかの視点から物語を見ることで確信に変わった。

白羽蘇芳という少女は、作中の少女達にとっても、プレイヤーの自分にとっても、紛れもない偶像、アイドルだ。誰からも好意的な目を向けられ、そこには憧れがあり、恋愛感情とも言える好意があり、処女性を求める理不尽さがある。

白羽蘇芳という偶像に、特定の近しい人物がいてはいけない。そのような残酷なルールが、匂坂マユリを攫う。それを受けた蘇芳は、アイドルにあるまじき行動・・・ルールを破る行動を取り、匂坂マユリを強く求める。そこには春に正解だけを求め常に模範的であった白羽蘇芳という偶像はいない。今の彼女であれば「作り物の美少女」としてではなく、一人のキャラクターとして見ることが出来るかもしれない。結局のところ、この作品の主人公はどこまで行っても「白羽蘇芳」なのだろう。